来 歴


今 夢は


始めて見た夢は覚えていない
少し大きくなってからは
逃げて行く夢をしきりに見た
饒舌な友人と親しかったころ
夢の中でも
羽の折れた小鳥になって
底知れない緘黙の闇へ
墜落し続けたものだ
もの言わぬ安楽を得るためには
悪魔と手を結んでもいいと思い
その存在を信じてもいないくせに
悪魔の呪縛から逃げきろうとして
冷たい寝汗ばかりかいていたのも
同じころの夢の中
どこかへ出て行こうと
夢ではいつもいらだっていた
いつのまにか
背中いっぱいに育ててしまった
青くて固い棘
そんな自分自身から逃げ出そうと
夢の外には聞こえない
恐怖の叫び声をあげながら
疾走していたのかもしれない
今 夢は
足りない時間にうろたえて
ことばの闇の中を漂っている
墜ちて行く黒い小鳥にも
海の方から飛来する悪魔にも
棘の毛皮を着た傷つきやすい塊にも
もう死ぬまで出あうことはあるまい

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